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アボリジニから学ぶ、科学の発達への準備

2009年09月16日

アボリジニは目印の無い砂漠を迷うことなく行動できます。

この能力を失った私に、科学はGPSにより同じ能力を与えてくれます。

これがあれば、オーストラリアを迷うことなく行動できます。

  

ケアンズ滞在中にリビングインケアンズの9,10月号が発行されました。

今回のアボリジニ特集は楽しみにしていましたので、何度も読ませていただきました。

その中で、「滝の音を聞いていると、もうすぐ誰かが亡くなるとか色んなことがわかる」というアボリジニ女性の言葉が紹介されていました。

  

病気の発生を予測し、予防すること、それによって、死を避けることは医師である私の大きな目標です。

  

ここで、ひとつの疑問が発生します。

もし、誰かが亡くなることが予測されれば、われわれ医師はその運命に抵抗し救うことができるのだろうか、もしくは、われわれの抵抗も含めて予測されているのだろうかということです。

つまり、電車がレールを走るように運命が決まっているのかどうかということです。

  

将来が決まっていないことは希望につながり、意志による行動を促し、失敗と成功を生み出します。

科学は、将来を正確に予測することを可能とし、希望に達するための方法とコストを明確にし、失敗を減らし、成功を確実にすることにより、希望を目的に変換します。

  

アボリジニは世界に含まれる全ての情報をそのままにとらえ、個と世界の境界が存在しない、意識と無意識の境界も存在しない全体的な働きによって、このことを感じ、受け止めているように思われます。

一方、われわれ現代人は、世界に含まれる情報を、一度言語や記号などの意識できる方法に変換し、再構築して還元するという方法によって、世界を認識しているようにも思われます。

そして、無意識の意識への関わりの個人差がセンスや感性の違いとなって現れるのでしょう。

 

ヘーゲルは人間の知恵は発達し、絶対知に到達できることを予見しました。

このとき、科学は世界の関係性に存在する、現時点では見えない全ての方程式を解き明かし、将来を正確に予測するようになるでしょう。

  

科学が発達し、自分の死が正確に予測されることとなったら、われわれは正気を保つことができるでしょうか。

  

このような、危険性をはらんでいる医学は、現在死から逃れるために進歩しています。

  

死を予期できるアボリジニは、さまざまな通過儀礼を通して死に対する哲学を獲得しています。

われわれの死が正確に予測されるほど科学が発達する前に、アボリジニ同様、死に対する哲学を持たなくてはならないのかもしれません。

もしかすると、アボリジニが持っていた能力を取り戻すことも必要になるかもしれません。

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プロフィール

ymitsuiymitsui
三井 康利。 1972年静岡県生まれ。 1997年北里大学医学部卒。 内科医。 現代西洋医学と補完代替医療、思想・哲学の良い点を取り入れ、ホリスティック(全人間的)な視点から医療を考察・提案。 臨床医として日常診療に役立てている。 資格:日本内科学会認定医、日本補完代替医療学会学識医、日本温泉気候物理医学会温泉療法医、日本旅行医学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
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