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ケアンズ療法のすすめ       

自然療法波高し

2015年04月04日

ケアンズ滞在中のある日、昼寝をしていたら、妻から声をかけられ何やらものものしい雰囲気。

「息子の咳が激しくて止まらない。普通の風邪の咳じゃない」と。

数日前に咳が出ているのに、プールで遊びたくて遊びたくて止めるのを聞かずに無理をしてプールに入り、少し遊んだところで、普段なら自分からは決してプールから出るとはいわないところ、寒いから出るといっていたことから、心配をしていました。

やはり・・・

翌日に39度の熱が出ました。熱だけだったのでこのときは様子を見て、次の日には平熱に下がりました。しかし、さらにその次の日に熱はないものの、咳が酷くなってしまいました。

咳などの自律神経系が影響している症状の時には、まずは安心をさせることです。それだけでよくなることも多いのです。

心配している大人たちに囲まれたら、子供はビビリます。大人だって不安になるかもしれません。

不安を与えて何もよいことはありません。

聴診器がないので、まずは耳を胸に押し当て呼吸音を聞きます。幸い、肺炎のような音は聞こえませんが、わずかに喘音が聞こえます。

「ウイルス性の上気道炎メインで気管支炎や肺炎はあってもわずかだろう」と家族に伝えました。小職にとっては酷い咳を伴う普通の風邪です。

不安な人達から遠ざけるために、息子を抱き上げ安心させ、外に出てケアンズの爽やかな空気を吸わせます。

まずまず落ち着いたので、「様子見て大丈夫じゃない?」と家の中に戻ると、険しい表情の大人たちをみて、また咳がひどくなります。こりゃだめだ。

だんだん、「病院に連れて行け」の連呼になります。

『病院に行って誰が診るんだ?医者だろ?医者が大丈夫だって判断しているんだから大丈夫なんだよ』と思いましたが、『病気になったら病院に行く』が固定観念化されているので、病院に行くまで気が済まないのだろうなと思いました。

家族を責めることはできません。

行ってもあまりいいことがないので一応説得を試みます。

「病院に行けば2時間3時間待つかもしれない。そうしたら休養する時間がなくなってしまう。今の状態で病院に行ったところで気管支を広げる薬を使うくらいしか方法がない。この効果は一時的であまり解決にはならない。今の時点では有効な薬がないし、もう少し酷くなれば手を打たなければらないが今は必要ない。酷くなったらそのときに対応すればいい。今はゆっくり休ませることが先決だ」と説明しました。

それでも「病院に連れて行って」と懇願され、やれやれと救急病院に電話。

電話をすると、「とりあえず診させていただきますが、こちらで対応できない場合は総合病院に紹介させてもらうこともあります」と。

実はこれまで、ケアンズの家庭医にかかってもパナドールを処方されるだけで満足に診てもらえないという評判を聞いていたため、ちょっと疑心暗鬼です。

仕方ないので医師であることをつげ、「それほど酷くなさそうなので、β刺激薬と、マイコプラズマかもしれないのでマクロライドの抗生剤を処方していただければ助かるのですが」と尋ねると、「事務員なので置いてあるかわからないのですが、先生の診察での判断になります」と。そりゃそうだ。

行っても無駄足になりそうなので、しばらく様子を見る旨を伝え一度電話を切ります。

「必要ならいつでもご連絡ください」ととても親切です。

「行ってもたぶん意味無いと思うけれども。どうする?様子見ない?総合病院じゃないと薬ないかもしれん」と家族に伝えると、「それなら総合病院に連れてって」と。

無茶言わんでください。ルールや手続きってものがあるんです・・・

四面楚歌はこういうのを言うんだろうなと思いました。

家の中には闇が漂い、このときには咳は最高潮に。会話すらできない状態です。

確かに、咳は酷くつらそうなので、すぐにでも止めてあげたいという気持ちはわかります。もし方法があるならそうします。しかし、方法がないから耐えて見守る以外に仕方がないのです。

息子に聞いてみます。「どうする?病院に行く?」と。

息子も大分辛そうではあり、ほとんどの大人がそういうのだから病院に行けば楽になるだろうと思ったのか、「病院に行きたい」といいます。

本人がそういうなら行くのもいいでしょう。

安心は病気を治します。

車に乗ると息子は安心したのか大分よくなってきました。診察室の椅子に座る頃には忙しいのに診察をお願いしたのが申し訳なくなりこのまま帰りますと言いたいくらいによくなっています。

しかし、わずかな喘音があるため、β刺激薬のネブライザーを指示されます。

小職はあまりやりたくなかったのですが、息子は水蒸気を見て、煙が出てると楽しそうです。

どちらかというと、β刺激薬の薬効よりも、ネブライザーの儀式的な煙のワクワク感のほうが効果が大きそうです。

その場では効果がありましたが、会計を済ませて車に乗るときには元の木阿弥です。

家に戻ると、「病院にいったんだから安心ね」と。家を出るときと息子の咳はまったく変わっていないのに・・・

「酸素投与してきたんだろう!」と。酸素足りているのでまったく必要ないし、あまりの的外れに力が抜けます。第一酸素じゃ上気道炎は治りません。

この世の中では、概して正しいことよりも、感情にもとづく直感のほうが尊重されます。

常識や知識に基づく正しいことをいうと、冷たいといわれ非難されることもあります。

大体の人は、何もしないで見守るということができません。何かをしなくてはいられないのです。

しかし、看病とは自分がしてあげたいことをするのではなく、患者がしてほしいことをすることです。ホスピタリティです。

夜も遅くなったので、とりあえず寝かせようと思いますが、家族が布団をかけたり、水分を促したりしています。

息子を見ると、ほおって好きにさせてほしそうです。

「もう、いいから。好きにさせてあげて!暴れているけど、そのうち疲れて寝るから」

家族が寒くなるからとタオルをかけようとすると、息子は嫌がり暴れます。そして、咳を出します。寒くなる朝の心配よりも、暑い今の快適さのほうが大切です。

おねしょが心配だからとオムツをはかせようとしますが、無理にはかせようとするのに抵抗して咳を出します。今はおねしょの汚れよりも、寝かせるほうがずっと大切です。

「オムツははかせなくていいから。もう寝かせてあげて」と自然に口調が荒くなります。

これにはもう、仏のヤッシーも大分腹が立っていました。

もう息子が不憫で、心が折れて、泣きたくなります。

気持ちはわかるのですが、思いやる気持ちがあっても、方法が正しくないとよくならないのです。この世の中の法則は厳しいのです。

一抹の心配もあり、呼吸の管理もしたかったので小職が息子と寝ることにしました。

寝室にベッドの上で息子と二人になると、息子は身体の置き場がなさそうで、激しく咳を続けながらベッドの上を暴れまわり、足をばたつかせ、小職は背中でそのキックや踵落しを受けます。

自然に任せると、5分もしないうちに寝息を立て、咳は止まります。

睡眠で自我が止まると咳も止まるのです。

息子の寝息を聞きながら、喘音が酷くならないことを祈ります。

睡眠のサイクルは大体1時間半。睡眠が浅くなったときに咳が出ることが考えられるため、そのときにできるだけ睡眠を維持させてやることが大切です。

そして、寝ている間も、息子の呼吸が浅くなると、小職がゆったりした深呼吸の呼吸音をたて、深い呼吸にリードします。

暴れたときはキックを背中で受けて安心させてやります。

このような感じで、なんとか3時間くらい寝たところで、息子は起きてしまいました。しかし、多少なりとも休めたのかずいぶん元気になっていました。

今度は、ママがいないつらさです。子供はまだ見えないへその緒で母親と繋がっています。パパではダメです。

それを察した妻が起きてきて、息子を抱き、あとは一緒に寝ます。

翌朝には大分よくなりました。

蜂蜜をなめさせ、息子が大好きな肩車で庭を散歩し、ケアンズの朝の爽やかな日差しと風と香りに当て、治療完了です。

そして、「薬を飲ませなくていいの?」と聞かれたので、もう説明するのも疲れ果てて面倒になったので、万一のときには使おうと考えて、処方されたステロイドを隠していました。

その結果、一度のネブライザー以外にはとくに薬を使うこともなく、予想よりも早くよくなり無事帰国もできました。B787の空調が優秀なのも助かりました。

結局のところ無駄足で、私たち家族は夜の3時間を失い次女は風呂に入れず夜更かしになり、保険会社は200ドルを失い、当直の先生の忙しさが増しました。

最後に悪い評判を聞いていた、ケアンズの医療レベルです。

日本の医療はすぐに採血やレントゲンに頼ります。しかし、今回の先生はしっかり息子の症状をみて小職と同じ診断を下しました。

治療方針は小職の考えとは違いました。しかし、これは帰国を間近に控えた旅行者のことを思えば、そういう処方をしてくれるのは親切ともいえます。

確かにステロイドを使えば、すぐに咳は止まるでしょう。

しかし、小職にとって価値があるのは、帰国よりも息子の生涯の健康です。ステロイドは強力な抗炎症作用を持つ一方で、さまざまな副作用を持ちます。

ここで、下手にステロイドで誤魔化しをすると、症状を固定化させ慢性化するリスクがあると小職は考えます。(数日間の使用なので、この考えを否定する医師も多いと思いますが、肯定する医師も多いと思います)

飛行機に乗ることができずに帰国を遅らることは、多少の痛手ですが、追加の航空料金を負担すればよいだけのことです。

今回の先生はしっかりしていました。そして、家庭医でパンドールをみて様子を見ろと言うのは、何もしなくても大丈夫だという診立てでしょう。

自然治癒の効果はただ単純に病気が治ることだけではないと考えます。

行動学では、快は報酬として働き、不快は罰として作用します。快は選択され、不快は回避されます。

痛い目にあい身に染みているからから、その後もプールに入りたいとは言うけれども、酷くなるからやめたほうがいいというとすぐにあきらめるようになりました。

いくら親が厳しく叱り付けるような罰を与えたところでところでダメです。子供には経験がないから原因と結果の関係をあまり理解できません。自分の選択の結果を身をもってつらい思いをしないとダメです。

薬で誤魔化して症状を止めてしまったら、また同じ過ちを犯すでしょう。

痛みや辛さはしっかりと受け止めなければならないのです。

これも自然の深いこころ、自然療法の効果だと考えています。

最近自然療法という言葉が独り歩きしているようにも思います。

自然療法というのは正確な医学的知識と判断、患者さんを全人間的に見る能力、時間と忍耐と予定を延期する勇気と追加のコストを負担する覚悟を必要とする療法です。

最後に診察してくださった先生と対応してくださいました事務員さま、予約をしていてキャンセルをしたにもかかわらずバースデーケーキの手配など快く対応してくださいましたケワラビーチのレストランに深く感謝します。

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プロフィール

ymitsuiymitsui
三井 康利。 1972年静岡県生まれ。 1997年北里大学医学部卒。 内科医。 現代西洋医学と補完代替医療、思想・哲学の良い点を取り入れ、ホリスティック(全人間的)な視点から医療を考察・提案。 臨床医として日常診療に役立てている。 資格:日本内科学会認定医、日本補完代替医療学会学識医、日本温泉気候物理医学会温泉療法医、日本旅行医学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
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