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錆びの美しさ

2009年12月08日

週末に里山を散歩していると、置き捨てられている古い自動車に目が向きました。

ボンネットは錆びて風解しはじめ、昔風のデザインから、相当古くに製造されたものであることが分かります。

自動車を、移動のための道具、好みや考え方を自己表現する手段と考えたとき、この鉄の塊は遠い昔に価値を失っているでしょう。

中古車市場では、特別な例を除いて、傷ひとつない新車のときの値打ちが最も高く、経年や、傷や凹みができることによって、減損してゆくからです。

 

新しさが価値を持つようになったのには、さまざまな理由があるのでしょうが、理由のひとつは、このようなエコノミーによって、新しく、傷のないものに最も高い価値があると頭にこびり付いたためで、その一方で、かすり傷さえも心を悩ませるようになったかもしれません。

なぜかといえば、自動車は、運転していれば、ある確率で傷や凹みがつきます。このような価値観にとらわれていると、ちょっとした不注意での傷や凹みを大きな損害として悔やんだり、実際には起こらなくても心配されるため、不安の種になるでしょう。

 

新しく、無傷であることに価値を置く範囲が、モノだけにとどまらず、人にまで及び、「年は取りたくない」というふうに、年を重ねることが、不安の種や嫌悪、社会的な問題になっているのだとしたら、より大きな悲劇かもしれません。

大切な持ち物が古くなっていくこと、自分自身や大切に思う人が老いることは、避けることができない宿命です。しかし、古さや老いが良くないものと思い込んだとき、日々は不幸への階段となるでしょう。

  

しかし、この価値のものさしは、生まれつきに人間に備わった性質なのでしょうか?それとも、社会や文化から影響を受けたものなのでしょうか?

  

アボリジニの価値観に眼を向けると、われわれが価値があると信じている不安定な鉄よりも、時間を経て安定した、われわれが嫌う錆が大切にされます。錆は血と関係を持ち(血液には鉄が多く含まれています。どのようにしてアボリジニは気づいたのでしょうか)、神聖で霊的な力があると信じられ、体に擦り込むほどだそうです。

また、アフリカの社会では、少子高齢化の逆の現象である、多子少齢化が問題となっています。子供に教えることのできる知識を持つ大人が少ないため、子供が危険を避けたり、生きるために必要な知識を習うことができず、長生きすることができないためです。

  

これらの例を考えに含めると、新しさを好む性質は、人が生まれながらにして持つのかどうかはわかりませんが、それ以上に、社会や文化が影響しているのだろうと推測することができます。

  

時の流れとともに形が崩れ、母なる地球に帰ってゆく姿に、美しさを見つけ出すことができるようになると、大きなストレスの原因が解消され、日々の経過は喜びに変わると信じています。

新しいものが絶対に良いという価値観を問い直し、アボリジニの眼に心を合わせようとしたとき、上の錆びて古びた鉄の塊の写真が、最初に見たときよりも少しだけ美しく感じないでしょうか。

  

もし、新しさを最高とする価値観によって胸を苦しめられることがあるのならば、「こころ」のありかたを変えることで解決できるのかもしれません。

このとき、アボリジニの哲学はわれわれの「こころ」を救ってくれると信じています。

  

そして、「さきわひの如何なる人か。黒髪の白くなる迄妹が声聞く」という万葉集の一葉を思い起こすと、アボリジニだけでなく、われわれ日本人の「こころ」の奥底にも、幸福な老いを見出す精神が備わっていることがわかります。

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プロフィール

ymitsuiymitsui
三井 康利。 1972年静岡県生まれ。 1997年北里大学医学部卒。 内科医。 現代西洋医学と補完代替医療、思想・哲学の良い点を取り入れ、ホリスティック(全人間的)な視点から医療を考察・提案。 臨床医として日常診療に役立てている。 資格:日本内科学会認定医、日本補完代替医療学会学識医、日本温泉気候物理医学会温泉療法医、日本旅行医学会認定医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。
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