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2001年5-6月号・其の45 空き巣に御用心
2007年09月05日
「刀はありませんかネ」
久し振りの電話は、マイケルからである。以前、私のタウンズビル道場の支部長をしていた男で、現在、ジェームスクック大学の動物学者。まァ、変わり種だ。人物は信頼出来る。
大学の仕事の都合で空手から遠ざかって、数年になる。
「あるよ」と言うと、ぜひ一振り譲って欲しい、と言う。何かあったナ、と思った。
彼の研究室への突然の電話は、ポリスからだった。彼の家が空き巣にやられ、現在犯人を調査中という。まったく寝耳に水の話で、前後の事情がよく分からなかったのも、無理からぬ話ではある。
その日、若い男がセコハンの店へギターと真新しいビデオ等を持ち込んできた。落ち着きがない。店員も心得たもので、品物を詳細にチェックすると、ちょっ と目には見えない箇所に、マイケルの住所と名前をプリントした小さなラベルが貼り付けてある。若い男の名前とは異なる。キャッシュを取りに行く振りをし て、ポリスに通報。男も気配に敏感であったようだ。品物をヒッ掴み、店から走り出た。車はエンジンをかけたままにしてあったそうだから、かなり手慣れた手 口ではある。
マイケルの家は閑静な住宅地、アールビルにある。いい家だ。ビッタリと六尺程の板塀に囲まれ、中がまったく見えぬ。いかにも安全そうに見える家なのに、そこが盲点だったようだ。
男は、マイケル夫妻が昼中働きに出ているのを調べていた。反動をつけて板塀に取り付き、難無く乗り越えて侵入。透き間のない塀の為、外から見られる心配 はない。雄々と仕事をしていったようだ。プライバシーも大切だけれど、塀は、ある程度外部から中の様子が見える方が、安全、という事かも知れぬ。
男が不用心に残していった指紋から、身元が割れた。前科があった。ここのポリスもちょっとしたもので、数日内に男を上げた。男は、マイケルが一番大切に していた二振りの日本刀も持ち去っていた。ところがその男、刀をどうしたのか、吐かぬ。ポリスもあまり強い尋問は出来ない。今流行の、人権、に引っ掛かる からだ。それのみか、犯人にも、人権侵害として訴える権利がある。
まったくナァ、ロクに働きもシネェで人様の財産をかっぱらい、ノウノウと暮らしているような人間に、人権なんザァもったいネェナー、と私は思う。そんな腐った根性を持っている奴等は、ブタ箱にブチ込んで、出所まで強制労働にでも使ってやればいいのに。
こんな話もある。場所はマリーバ。ケインズから約一時間の高原の町。男が同棲していた女性と喧嘩。殺してしまう。殺し方がひどい。死体の顔は無惨に腫れ 上がり、鼻はつぶれていた。倒れたところを所かまわず踏んづけたのだろう。内蔵は損傷し、ほとんどの肋骨が折れていたそうだ。
裁判で、男は殺す意志はなかった、と主張。結局、法廷は男の殺意を証明出来ない、として過失致死で二年。死体の惨たらしさが、殺意の有無を証明してい る、と思うのだが、法的にはシッカリとした証明が必要になるらしい。生きている人間は、少々悪さをしても、立派に人権は存在するのに、殺された人間にはな いのだろうか。
人権とは何とも重い、大切なものだ。しかし人権を濫用しるぎると、本当に人権を必要とされる立場の人間を、逆に軽視する結果にもなりかねない。人間である、という理由だけで、人権が与えられるものでもあるまい。
人間として、その社会に生きる義理と責務に裏打ちされてこその人権、と私は思うのだが、まァこれは理想論かも知れぬ。
マイケルの刀は、出てこなかった。男が数ヶ月たってブタ箱から出てきたら、適当に処分するのだろう。盗られ損だ。自分の持ち物は、自分で責任を持って守らなければならない、という事だ。
同じ頃、私の左側の隣人がやられた。私の家は隣人同様、道路から約30メートルのドライブウェイがあり、前に一軒、前面の隣家がある。背後はブッシュ で、ケインズで真ん中の住宅地なのに、大変プライバシーがいい。その分、不用心でもある。隣家侵入の犯人は、ドアのガラスを割って難無く侵入。各部屋を物 色して金庫を発見。鍵がないので、納屋からガーデン用の荷車を持ち出して金庫を運び、車に乗せて運び去った。昼中三時頃。まったく堂々としたもので、昼中 が意外に危ない。私はそのとき在宅してたのに、物音一つ聞かなかった。プライバシーがいいのも、こんな時は困る。
右側の隣人がやられたのは、数ヶ月前。15才のガキだった。早朝、物音がするので出てみると、ガキがまるで自分の家のように、釣り竿等を両手いっぱいに抱 えて立っている。ガキに手荒い事をすると、逆に訴えられる。ポリスに引き渡しても17才以下。そのまま釈放だ。罪にならない事を知っているから、この年頃 の盗みが、今一番悪い。ポリスも手を焼いているそうだ。親には、子どもをキチンとした社会人に育てる義務がある。ガキを罰する事が出来ないなら、両親には 何等かの責任体勢をとらせてもいい。ガキの事は知らネェよ、では、人権を重んじる国にしては、スジの通らない話だ。
最近NSW州では法律が変わり、賊の侵入に対して、いかなる防衛も認められるようになった。当然だ。QLDは、まだ駄目。万一の為木剣を用意しておく、 とする。それを賊に使用したら、人を殴る為の準備行為だった、として法に触れる。冗談じゃネェよ、と思う。賊が入って来たら「HELP YOURSELF(お好きにどうぞ)」というのが、一番安全みたいだぜ。世界中様々なトラブルのある中、豪州にはまだまだ素晴らしい生活環境があるけれ ど、犯罪者にとっても、有り難い国である事は確かのようだ。
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