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2003年7-8月号・其の57 宝の持ち腐れ

2007年09月05日

ハンドーフ。過去数回訪ねた。行くたびにきれいになり、何処にでもあるような近代感覚の店が増えていた。キャラクターが無くなりつつある反面、観光客は大幅に増加し、著名な観光地として定着しているようだ。
アデレードからやや南、ハイウェイに乗ると四十分位で、ドイツ人移民の町ハンドーフに着く。最初に行ったのは、もう二十年も前。町ぐるみ観光客の誘致に 努力している様子が見え、個人住宅を改造した意匠をこらした店が軒をつらね、チョット変わった物も売っているので楽しい町だった。クイーンズランドで言え ば、サンシャインコーストの山の町、モントビルってとこかナ。
最後に訪ねた数年前、午後遅く着いたので、翌朝に備えて一泊する事にした。翌朝、ユックリと朝食をすませ町に入ると、何処も開いていない。手持ち無沙汰 な観光客がアチコチに見える。店は十時から。アンティークショップとなるとまだ遅くて、十一時以降の店もある。十時から四時までの六時間。有名な観光地に なったから、客はいくらでも来る。短時間で十分の商売が出来る、と考えての時間設定とは思わないが、そうだとしたら本末転倒もいいところだ。せめて普通通 り九時から五時までは働いて、遠来の観光客の便宜をはかってやってこそ、名の通った観光地と言える。

まるで一世紀前に逆戻りしたような錯覚に陥るニューノーシアの村を出、トゥデイの古いパブで一泊。翌日パースの東方約一時間の距離にあるヨークに入る。 1830年建設の西豪州で最古の町。当時の町並みが見事に保存されている素晴らしい町だ。パースから日帰りコースとして最適な地点にあるので、特に週末は 賑わうようだ。
ヨークには産業がない。立派に保存された町並みという魅力的な観光資源があるので、町としては何とか観光客を入れたい方針が見える。それにしても町の人 々の無愛想さはどうだ。並ぶ店も何等特徴のないものばかり。これだけの雰囲気がありながら、勿体ない話だと思った。おまけに店は三時を過ぎる頃から、パタ パタと後始末を始める。客がいても意に解しない。保守的な考え方をする人が多い、と聞いた。保守なら保守でいい。それに徹して筋の入った保守にすれば、 ヨーロッパのようにそれなりの解答が出てくる。中途半端な保守、というのが一番始末が悪い。

似たような観光地がケインズの近くにもある。クランダ。日本人にはキュランダ、と知られている。私がケインズに住み着いた28年前頃、クランダはヒッ ピーの巣。彼等が自分たちで栽培した野菜類や果物、手作りの品を持ち寄って物々交換したり売ったりしていたのがクランダマーケットの始まり。ケインズの ローカル達も、野菜が安いので、よく買いに出かけていたものだ。このマーケット、何が出てくるかも分からないので面白く、私もよく行った。
クランダが観光地として脚光をあびて以来、マーケットは何処にでもあるような安物やアジア等からの輸入品、アボリジニーの道具とTシャツとまったくキャラクターの無いつまらない場所になってしまった。おまけに皆、愛想が悪い。

つい先日、友人数人と私の生徒のパブで昼食をとりながら一杯やった。三時すぎ、クランダの町に散策に出た。この時間帯になると、メインストリートは人影 がまばらになる。あるカフェに入った。野郎共はコーヒー、女性はアイスクリームでも、と考えていた。その店、カウンターに客が二、三人いるだけで、応対し ていた中年の女主人、私達がドヤドヤと入って行くと、肩をすくめるようにして白い目で天井を見た。豪州人がよくする、ヤレヤレもう沢山、という軽い否定の 表現だ。私と友人の一人が目ざとくそれを捕まえた。私シャもう店を閉めたいのに、又客が来やがった、と女主人は言いたいのだ。カチン、と来た。友人がコー ヒーを頼むと、コーヒーはもう作れない、と言う。カフェにコーヒーがない。女達はアイスクリームを頼もうとしたが、物も言わずに皆をカフェから引き出し た。

ケインズにはリーフ以外に対して見る所がない。別にクランダが世界的に有名な観光地、という訳ではなく、近くに手頃な場所がないからクランダに連れて来ざるを得ないだけだ。
何処にでもあるような特徴のないマーケット。最終列車が駅を出ると、パタパタと閉店の準備をする。スカイレールは四時半まで運行。車で来る客だってある んだゼ。何処の店でも愛想が悪い。フレンドリーなノース、クランダビレッヂ、というイメージを売るのなら、もう少し真面目に雰囲気作りを考えたらどうだ。 町議会で決定し、店やカフェ、レストランに入って来る客、道で会う観光客には誰でも彼でもつかまえて、G’DDAY, MATE, HOW’YA GOING ? 笑って挨拶ぐらいはさせる事だ。クランダで働く者は全員、女性は往年のロングドレスにエプロン、グラニーハット。野郎はカウボーイハットの牧童でも金 鉱捜しのスタイルでもいい。それぞれ職場に似合った扮装を強制させる。ポリさんは腰にサーベル、鞍の横には303(旧豪州軍主力小銃)をブチ込んで、馬で 町中をパトロールさせる。町中の建物にも規制を設け、何処にでもあるようなギラギラした安っぽい建物は建てさせない。昼食だからと行って、食べ物には絶対 に手を抜かない。

こんな雰囲気作りに努力している男がいる。クランダの駅を上った所にある1880年建立のパブのオーナー、バリー。私の道場の生徒だ。往時の雰囲気を出 来るだけ忠実に残そうとしているパブ。前を通る観光客には誰でも、従業員共々、フレンドリーに挨拶をさせる。パブの食事もチョット面白い物を安くサービス している。チャンスがあれば彼のパブに寄り、ギネスパイ、を試してみるといい。往年のアイリッシュシチューにヒントを得たようなこのパイでギネスを一杯、 タップからグラスでもらう。これが又よく合って、オリジナリティを感じさせる昼食である。

サービスとかイラク戦争の煽りで、ケインズもグッと静かになった。平常になるのは、年内一杯かかるだろう。観光客が少ない、とか不平不満の声をアチコチ で聞く。これはむしろケインズにとっては良い薬で、ローカルの観光業者は、ケインズやクランダを長い目で見て向上させるには、何が大切なのか、よく見直し てみる事だ。ケインズがいい、と言っても未だ三流観光地の域を出ないのは、意外と身近なところにも問題があるように思う。

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