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エッセー

2005年11-12月号・其の71 本音

2007年09月05日

何かあったナ、と思った。
ジョン、あまり物を言わぬ男だが、心は温かい。ベテランの教師。その腕を買われてか、問題児のカウンセラー、というやっかいな役職にある。

その日、浮かぬ顔をして、稽古にやって来た。
「どうしたエ」
さり気なく聞くと、「イエネ、チョイト情けない思いをしましてネ」、と言った後、マァいつもの事ですヨ、と口の中で付け加えた。

どうしようもない生徒だそうだ。担任の先生がたまりかねて、ジョンの所に連れて来た。まだ12才。ところがこの生徒、ジョンの忠告を完全に無視するばか りか、彼の目の前でタバコを吹かし始めた。ガキめ、いっぱしの事をする、と聞いていておかしくなった。カチンときたジョン、タバコを止めさせようとした ら、プイと出て行ったきり。

そのすぐ後、校長からの呼び出し。不審に思いながら出かけて行くと、「今回は大目に見るけどネ、声を上げて子供を叱り付ける事は、法律で禁止されています。次回は免職処分ですヨ」

その生徒が直接校長に告げ口したのは明らか。それにしても30年以上も経験のある教師の忠告より、悪ガキの大げさな告げ口が通るとは、世も末だ。
とは思うものの、現今、子供への過剰なまでの権利、保護から考えると、あの悪ガキ、必要以上の大声で叱られた、と学校を訴える事も出来る訳だ。先生だっ て分かってはいるものの、これが恐い。学校の方がビクビクと神経質になるのも、現在の法律制度から見ると無理からぬものもある。

私の道場には、かなりの数の教職者が稽古に来る。誰も学校の内情を私に話してはくれないけれど、何かがあるとどうしても私の耳に入ってくる。

バリーも一生を教職にかけた。その生徒、殴りかかってきたそうだ。バリーも有段者。子供のパンチをかわすのは、何でもない。

「ヘン、俺達はお前ェ達をブン殴ってもかまわネェけど、お前ェ達は俺達に触ることも出来ネェんだぜ」

何とも子供らしい捨てゼリフ。悪ガキ程自分達の権利を逆手に振りかざす。先生はどんな形であれ、生徒に触る事は禁じられている。特に男の先生には、生徒 からの風当たりも強い。バリーもストレスが溜まる一方で、非常勤講師を希望。責任は軽くなるし、ガキの顔は毎日見なくてもいい。ストレスが減って、生活が 楽しくなったそうだ。

部屋に入った途端、その女生徒、金切り声を張り上げて部屋から飛び出して行ったそうだ。ジム、一瞬どうなっているのか分からなかったらしいが、すぐに、シマッタ、これはやられた。不注意だった。やばい事になる、と感じたそうだ。

ジムが、他人に聞かれたくない、という相談を1人の女生徒から受けたのはもう数年前。面倒見のよいジム、彼女の要望に応えて、無人のクラスルームを使う事にした。

彼女、いたずらのつもりだったのかも知れない。最終的には彼女の両親がジムをセクハラで訴える。彼女も引っ込みがつかなくなったのか、友人の証人まで偽 造したものだから、ジムの無実が裁判で証明されるのに1年以上を費やした。その間教師の仕事はなく。相当額の裁判の費用、妻君との不仲も重なって、ジムは 踏んだり蹴ったり。

15年も続けた空手の稽古も遠ざかり、無実の証明の後、一人で英国に帰ったと聞いた。私には黙って去ったジムの心情が理解出来ず心に引っ掛かっていた。その彼から2年も経って長いメイルが届いた。その時初めて、私に事の全貌が分かった。

ジョンとバリーは、マァ腹は立つが、子供相手。しかしジムを訴えた女生徒の嘘は、許せない。勿論彼女、裁判の結果偽証と証明されても17才以下。何の罪もなかった。ジムは30年の教職を棒に振った。

「NO、という言葉は、禁じられているンですヨ」

幼稚園の先生のジーナ。幼稚園では子供を叱れない。悪い事をしている子供に、NO、と注意するのも駄目。とにかく幼児に否定語、と名の付く言葉は使用禁止。否定語を使用せず、それがどうして悪いのか説明し、婉曲に諌めなければならない。

一見子供を尊重しているようで、長い目で見て駄目にしている良い例。幼児に事の善悪を教えるのは、単純明快なやり方でいい。子供は叱られて育つ。憎くて叱るのではない。可愛いからこそ、将来まともな人間に育つよう、叱る。

幼児の内に事の善悪の基本を植え込んでおかないと、けじめのない人間に育つ。それはそのまま、いつの日か、親にはね返ってくる。豪州流の現在の育て方、子供の教育。考え方の根本の相違が見える。

豪州の方針が大きく変わったのは、25年も前。労働党のホーク首相が政権を確保して以来である。ハワード政権で経済は向上しても、全州とも未だ労働党政 権は強く生きている。豪州で空手を指導して40年。私は空手を通して豪州人を見つめてきた。その変わり様は驚くべきものがある。

何も分からない幼児の時から、必要以上の権利を与えすぎるという事は、逆に幼児の好きなように甘えさせる事にもなりかねない。幼児に正しい意志、というものを持たせるには、まず親の意志が反映しなければならない。

ここに幼児時代の躾という、一番根本の教育がクローズアップされてくる。これを怠けて甘やかせてしまうと、最初に我がまま、という病原菌が顔を出す。こ の菌はまず忍耐力や集中力を殺し、尊敬心を汚染して意志力を弱め、その反面自己の欲求心ばかり促進させるという、妙にアンバランスな人間の形成を促すやっ かいな物だ。子は親の鏡、というのは、ここにある。

ケインズにも豪州人といとも簡単にくっついてしまう日本人女性が急増している。一緒になり甘い期間が過ぎると、考え方の相違と男の浅さが鼻に付いてく る。私には男を見れば分かる。この間に半分位は別れてしまうだろう。子供が出来ると、今度は子供の育て方で、大きな考え方の違いに突き当たる。ここで又、 残りの半分位は離婚する。

犠牲になるのは、子供。くっつくのも別れるのも勝手だけれど。子供だけは石にかじり付いても、しっかり育てる事。男を当てにするような、ケチな考えはしない事。日本人として他国に住むという事は、それだけの覚悟がいる、という事だ。

リン。ケインズ私立校の教師。若い先生2人と稽古に来ている。私は言う事を聞かない子供や悪さをする子供は、親の目の前ででも尻をヒッパたく。ガキの尻 を叩くには、それなりの理由があるし、私も覚悟して叩く。それで良くなる子供も多いし、反面ビックリして来なくなる子供もいる。良いと思ったら、体を張る のは私の商売。

「センセ、あんな事私の学校でしたら、その日で首ヨ」

丁度子供の尻を叩くのを見ていたリン。そう言ってキャラキャラと笑う。そして小声でポソッと付け加えた。「出来る事なら、私もやりたいヨ」 まァ先生方、それが本音だろう。

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