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ケアンズを舞台にしたショートストーリー
2012年12月13日
パウチに何度か来てくれた大波さんがプレゼントしてくださった、ショートストーリーをご紹介します。
その人を見てインスピレーションで詩を書いたり、オーラを見て自画像を描いたり。。その人だけに向けたモノって、ほんと特別感があります。
大波さんは、「私をモデルにしたショートストーリーを書いて」と頼まれて書いたたこともあるそうで、人物を観察していると、色んなシーンが浮かぶとか。 物書きさんてすごい才能ですね!
(↑ 写真は、「めちゃカルチャオーストラリアさんのFacebookからお借りしました。後列でピースしているのが大波さんです。)
では、ケアンズを舞台にしたストーリーをどうぞ。
夢の続き 大岩 憲一郎(ペンネーム)
澄んだ空、朝の肌寒さもない。いつでも南国のような気候のケアンズ。その一角にあるラフティーズジュースバー前の椅子でコーヒーを飲みながら、友部浩明は女性を待っていた。
「早起きだね~よっと」 よっとのタイミングで後ろから肩に両手をポンと叩いて、浩明を驚かしたのは阿澄由佳里。日常のちょっとした間を楽しくしたいといつも趣向を凝らしている。
「ファーム行っていたからね、早起きする癖がついているからさ」
「え~私も行っていたけどすぐに夜型になっちゃったよ」
今日は金曜日の朝、ファーマーズマーケットの初日である。エアーという都市でファームのアルバイトをしていた2人はセカンドワーキングホリデーに必要な日数分働くことができ、身体のあちこちを疲弊させながらも晴れてケアンズにやってきたのだった。
「来て初日にあんだけお酒飲んだらそりゃ……」 由佳里は酒豪である。
「それでけろっとしているんだもの」
「いっぱいお酒飲んでも酔わない私は損だな~って思うこともあるのよ」
「なんで?」
「少しのお酒で酔えたらコスパいいじゃん?」
早朝の青果が並ぶマーケット前でする会話としてはあまりに場違い。ただその会話中の笑顔は行き来する人々をほんの少し、楽しくさせていた。
由佳里がジュースのSサイズを注文し待っている間に、浩明は今日のデートプランを伝えた。由佳里はふんふんと聞き流している。興味がないのではなく、頭に残ってないほうがデートを楽しめるからだ。つまり、浩明の計画に信頼を置いているのである。
目的地はキュランダ。パンフレットを読み込み、脳内で妄想を膨らませながら築きあげていった計画の披露日だ。 さりげなく窓側に由佳里を座らせ、バッグからペットボトルの水を取り出す。ファームで働いていた時や語学学校に通っていた時の話で盛り上がるうち、徐々に景色は山々の連なりに。そこからは、景色に釘づけになる2人。「はあ~」とか「ほお~」とか感嘆ばかりが口から漏れる。
キュランダに着いてからは買い物を楽しんだ。様々な動物のキーホルダーに一喜一憂し、おみやげも買った。
端の方まで歩けば、開けた場所にそびえ立つ2つの小山とそこから離れて右のほうに存在感のある大きな岩。後ろに歩けば地面から2メートルほどの高さにある歩道から森を見下ろすことができた。
蓮の葉が一面に敷き詰められ真ん中に噴水がある池まで来た時にはいい時間だったのでベンチに座った。由佳里はランチを取り出した。
「じゃーん、サンドイッチ」
ラップでくるんで持ち運びできるかさばり知らずの優れもの、それがサンドイッチだ。
「静かで落ち着く」
「さっきまであんなに人がいたのにね」
観光地として有名な場所でも、中心から外れると人気がぱったりとなくなる。その環境に少しでも長く浸るため、いつもよりゆったりとご飯を食べた。
その後はウォーキング。せり出すヤシの木の連なりが延々と続く爽快さに、日々の細々としたストレスが発散された。
「ちょい休まない?」
以心伝心。由佳里もちょうど休みたかったところだった。
ベンチや木製の机がある小さな公園みたいな場所で腰を下ろす。
「こんな遊んでいていいのかなって思うよ」
「どういう意味?」
「いやほらさ、日本に帰ったら就職だなんだって待ち構えているわけじゃない」 大学を1年間休学してワーキングホリデーでオーストラリアに来た2人。周囲の人間から1年遅れで就職活動を始めなければならない。意地悪な見方をすれば日本で仕事をしたくないから逃避していたとも受け取られかねない。だからこそ、意味のある1年間にする必要があるのだ。
「結局さ、俺はそういうものを求めて海外に来たわけじゃないからさ」
「私なんか少しでも英語話せるようにならなきゃって、焦っているのにさ」
「日本で習慣になりつつあった環境を変えたかっただけだから。海外に来たからってあんまりなんでもかんでもしなきゃって気分にはならない。なるようにしかならないでしょ。気負わなきゃ、自然と向こうから楽しいものはやってくる。そんなわけではい、これ」
ケアンズ産ココナッツオイルがケースに綺麗にしまわれていた。ピンクのクッションで瓶は保護され、温かみのあるクマのイラストが黄色いケースの側面を彩っていた。
「かわいい! なにこれ」
浩明は、パウチの店主さんに由佳里の誕生日プレゼントを頼んでおいていたのだ。
プレゼント贈呈という重大イベントが終わり、肩の荷が下りた浩明はその後のことをほとんど覚えていなかった。ケアンズに帰ったのち、新たに始めたバイトの最初の週払いでホグブレスカフェのステーキをおごったことくらいしか……。
「パパ、ねえパパ。赤ちゃん一生懸命泣いていますよ。起きて」 浩明は過去の予定通り行かなかったデートプランの妄想を夢に見ていた。
今はお互い結婚し、浩明はシェアハウス経営、由佳里は日本語教師の仕事をしている。今日は夜中に赤ん坊をあやす当番を引き受け、抱きかかえながら寝てしまったのだ。 肩に手を置き、優しく起こす由佳里。
「あれ? キュランダとどっかがごっちゃになっていたな」 一方浩明は、ケアンズでの幸せな生活を寝ぼけながら楽しんでいた。
プロフィール
- Keiko Murphy
- リビング・イン・ケアンズ発行人。2児の母。 横浜国立大学教育学部卒。在学中インドへ行ってしまったがために(?)バブル期の就職活動に大きな疑問を持ってしまう。卒業後、就職もせずにワーキングホリデーで渡豪。当時の目的は、アボリジニの壁画を見ること。 後、帰国してDTPの仕事に就く。結婚を機に再びケアンズに帰ってきたのが1993年。日本語でケアンズ情報が読めたらいいのに…と、深く考えずに1995年3月にリビングインケアンズを立ち上げ、2011年よりフリー 牡羊座・O型
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