聴く人が、自分のパワーに
気づくことを願って演奏を続ける
8Ball Aitken
ブルースミュージシャン
Profile
グレッグ・エイトキン*現在は、8Ball Aitkenのステージネームで活躍中。
本文は、2004年3月時のインタビューです。
1981年6月9日生まれ。11人兄弟の長男としてマリーバの農場で育つ。農作業を手伝いながらハイスクールを卒業。ブルースに衝撃を受け、ギターやベース、ドラムなどの楽器、作曲を独学で始め、15才より地元のパブやクラブで演奏を始める。ブリスベンでのプロとしての活動を経て、04年よりケアンズに戻り、演奏活動を続ける。www.8ballaitken.com
www.myspace.com/8ballaitken
心の痛みを表現するブルースは、 僕の人生そのもの。
弱冠22才にして、自分の才能を強く信じ、進むべき道を明確に把握している青年がいる。
「音を通じて人を癒したい。自分の音楽によって、
1人1人が世の中をよくしていく力を持っていることに気づく手助けをしたい」
と言う、グレッグ・エイトキンさんだ。
物静かな彼が全てのパッションを捧げて演奏するのはブルース・ミュージック。
「小さな時から人間の孤独とか苦しみ、失望、飢え、そんなことを強く感じてきた僕にとって、
たまたま耳にしたブルースミュージックは衝撃的なものだった」と語る。
グレッグさんは11人兄弟の長男として生まれ、少年期をマリーバで過ごした。
小さな時から家計を助けるためにマンゴーやバナナの収穫など、
出来る限りの農作業や肉体労働をこなし、親の離婚、貧困を体験と、
決して平坦とは呼べない日々を送る。
そんな中で、アメリカ黒人の背負う人生の苦しみをルーツとし、
心の痛みと向き合うブルースに出会い、探していたものが見つかったような気持に。
自らが演奏を始めるまでに時間がかからなかった。
「どんな楽器でも基本がわかれば演奏できるようになる」と言う彼は、
リードギターの他、ドラム、ハーモニカ、ベースもこなす。
ブルースミュージシャンから教わったこともあるけれど、演奏も作曲も基本的に独学。
表面的なコピーでなくて、自分の言葉、自分のやり方を大切にしたいと言う。
グレッグさんの作る曲のテーマは、世界情勢、難民、人間のこと、だましあい、
自分の体験から恋愛まで様々。それぞれに異なるメッセージを込め、
違うリズムにのせ、ブルースの伝統を尊びながらも、自分の表現を加えていく。
「ステージ上で、シャワーで、トイレで。ふいに心の中に
音があふれるように出てくるんだ。眠れない夜に起きあがって詩を書き始めたり。
曲はまるで天からの贈り物だね。降りてきたものにチャンネルを合わす感じで、
どんどん新しい曲が生まれる。
楽器は、自分の中のものを表現するための道具にすぎないと言う気がする」。
音楽はすごいパワーを持っている。
13才頃から演奏、作曲を始め、自分が天から与えられた“ギフト”を自覚。
15才にして既に地元のパブやクラブで歌ってきたグレッグさんは、
数年後、新境地を目指してブリスベンへと旅だつ。
▲自主制作CD「THE DYNAMITE AITKEN BROTHERS」(Copyright 2003 The Dynamite Aitken Brothers) 貪欲にブルースの演奏活動を続け、CDもリリース。
弟さんと一緒に作った、"Dynamite Aitken Brothers"というCDは売り切れるほどの人気を博す。
JJJなどのラジオ局でオンエアされ、テレビ番組、Today Tonightでも紹介されるなど
活動に注目が集まり始めた今年、故郷ケアンズへ帰ってきた。
ブリスベン時代のグレッグさんの写真を見ると、今とはまるで別人だ。
品良く短くした髪にスーツ。
「このスタイルの方がブリスベンでは受け入れられるから。
ケアンズに戻ってきたらリラックスしているんで、服装もこの通りさ。(笑)」
たとえ見た目、演奏場所が変わっても彼の音楽を求める人がいることには変わらない。
現在、レギュラーでステージを持っているジョノス・ブルースバーでも、
地元の人、ふらりとやってくる観光客、と
年齢、客層を問わず人々に心地よいひとときを与えてくれている。
グレッグさん愛用のギター。ブラスコーンが付いていて、強くシャープでダイナミックな音が出る。
彼のステージは、威圧感がない。まるで空気のように空間に馴染んだ佇まい。
どこか投げやりな、それでいて語りかけるような歌声と、
鮮やかな指の動きから奏でられる音が、その空間を包み込む。
決して押しつけがましくなく、でも確実に聴く人の心に響く、不思議なパワー。
彼のブルースを聴きながら、きっと皆思い思いの憧憬を心に描いているはずだ。
目下の夢は日本で日本のミュージシャンと共演をすること。「オーストラリアにもブッシュソングというルーツミュージックがあるけど国が若くて強い文化がない。だから、日本のように古い歴史を持っている国に強く憧れるんだ」
「音楽を聴いて、具合が良くない人の調子がよくなったり、
落ち込んでいたのに元気になったり、妹や弟たちが夜、
ぐっすりとした眠りについたりということは珍しいことじゃない。
音楽っていうのはそれだけパワーがあるものだと思う」
先日はリーフで出会った韓国人の男性に、「言葉が違ってもすごく伝わった」と
ステージの感想を言われ、ミュージシャン冥利につきたとか。
音を通して人に楽しい時を過ごしてもらうことが自分の仕事、
とグレッグさんは思っている。
「人は誰でもクリエイティブだし、何らかのギフトを天から与えられている。
そしてそれは世の中を良くするもの。僕はそう信じている。
だから1人1人が自分の力に気づいてハッピーになる手助けをしたいと
強く願っているんだ。音楽を聴いている間は、今抱えている問題はちょっと置いて、
本当に大切なものに気づけるように」
「天からのギフト?まずは自分がとても惹かれることを見つけることじゃない?
それに子どもの頃本当に好きだったことを思い出したり。
絵やダンスや動物や…大人になって忘れていることがヒントになっているかもしれない」
自分の心に素直に。そして見つけたものに焦点を当て続け、ポジティブでいること。
自分の文化や家族を理解して表現すること。
グレッグさんのメッセージは音に乗って伝わる。
会話中、何度も出てきた“ギフト”という言葉。
全ては与えられている。持っている包みを開くかどうかは自分次第。
彼はそんな気持にさせてくれるミュージシャンだ。
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